うみをすすむ

0歳10ヶ月、網膜芽細胞腫(レティノブラストーマ)という目の小児がんで右目を摘出した息子との日々のこと。病気と向き合う記録。

知らなかったあの日の話

12月になるとやっぱりどうも不安になったりする日があります。


そういう話を主人としていたら
ふと語られたあの日の話。

それは私が知らなかった話でした。


手術の日、その時間になっても予約が満席で休むことができず
主人はいつもと変わりなくお店に立っていました。


そうしたらお店の常連でもあった眼科の先生が入ってきて、
「ただ今満席でして…」と伝えようとしたスタッフを優しく静止し
主人のところに行って静かに伝えたそうです。


「今、手術室に入ったから」と。


普段感情を表に出さない人なのですが
その一言を聞いて、
たまらずバックヤードで1人泣いていたんだそうです。



息子の目を摘出しなければならないその瞬間にも
お店に立たなければならなかった主人の気持ち。

予約がたとえ満席でも、休めばよかったのかもしれません。
理由を説明して分かってくれない人はいなかったと思う。
子供の大切な手術になんで休まないの?そういう人もいるかもしれない。

でも、変わりなく働き続けることは
彼なりの息子へのエールと
全てを受け止めるための決意でもあったんだと思います。
同時に母親である私と、先生方とを信じていたのだとも。

そんな主人の気持ちを分かって
その一言、ただそれだけを伝えにきてくれた先生のやさしさに
言葉が詰まりました。



私は分かったつもりで
分かっていなかったかもしれない。




これはそのままそっと仕舞って
書かなくていいことかもしれないとも思ったけれど

いつか坊がこのことを読む日がくるかもと

記録です。